5月16日、日本経済新聞WEB版に掲載される。

温泉宿を“爆”買収 中国人は地方観光の救世主か
インバウンド裏街道を行く に掲載される。

日経新聞

2015年度の訪日外国人(インバウンド)数が2000万人を超えた。観光地は盛り上がりをみせているが、その裏で異変が起きている。温泉地にある旅館やホテルの経営者が次々と外国人に入れ替わっているのだ。政府や自治体が「観光立国」に熱を上げる一方、経営難や後継者不足にあえぐ旅館やホテルの衰退は確実に進んでいた。経営を断念した売却物件を買っていくのは外国人ばかりで、その多くは中国人だ。日本の温泉旅館を狙う彼らの思惑はどこにあるのか。

■10億円の物件を即決
「この場でサインしましょう」。中国人男性が3軒の旅館購入を決めた瞬間だった。総額10億円にのぼる。中国人男性は「詳細を詰めるために近いうちに来日する」といって中国に帰っていった。「最初から買うつもりの場合は値引き交渉をしない。そして即決する」。物件を仲介したホテル旅館経営研究所(東京・中央)代表の辻右資はあらためて強く実感した。

 東京・銀座にある辻のオフィスに、中国人男性が訪れたのは3月中旬のこと。約束の10時前に受付のベルを鳴らしたその男性は、上海で複数のホテルを運営している経営者だという。そこから4時間に及ぶ商談が始まった。

 男性はもともと日本の温泉が好きで、観光でなんども来日していた。真剣な表情で建物の状態や客室スタッフのサービスなどを見ていた。夕食にも舌鼓を打った。同行した案内役は「本気で買うつもりできている」と感じたという。

■経営だけ入れ替わる
 外国人による旅館やホテルの買収は増えているが、正確な実態をつかむのは難しいとされる。昨年12月に「雲海テラス」で知られる星野リゾート・トマム(北海道占冠村)の全株式を中国企業が180億円で取得した買収劇。これは大きく報道されたが、通常は表に出ることは少ないという。宿泊客が知らない間にオーナーが入れ替わっているケースがほとんどだ。経営者が交代しても従業員はそのまま雇用されることが多い。